「何が言いたいの?」



葉月くんの質問に私は答えれなかった。



「別に…ただ、俺は君が思っている程優しい人間じゃないって事だよ」



葉月くんが優しい人間じゃなければ、彼は何になるのだろうか?



「価値のある人間なんてどういう事を言うんだろう? ほとんどの人間は自分の価値なんて見いだせていないよ」



そんなの知ってる。



そんなの分かってる。



「だって、お母さんがそう言っていたの。
どんな人間にも価値や意味があるって」



「ああ、うん…そうだね」



覇気のない返事に葉月くんは理解できない様子が読み取れる。



「そう…価値はあるんだよ。けどね、本当にあるのかな?」



「えっ」



「例えばさ、例えば頭の賢い人間がいるでしょ。
そいつは頭の悪い人間を見下するとしてだよ。
確かに頭がよければいい人生が待っているはずだよ。
…けど、それだけでしょ? ただ、頭が良いだけ。
それだけで価値なんてあるのかな?」



何が言いたいのだろう?



葉月くんだって頭が良いのに…。



「別に全員がそう言ってるんじゃないよ。
ただ、見下す人間に価値はないって言ってるんだよ」



それは、その人の人間性を疑うけど。



「本当にどんな人間にもそういう価値があると思う? …ないでしょ?」



はっきりと言い切った。



その時の葉月くんの瞳は、色味のかかっていない薄黒い色をしているように見えた。



「じゃあ、葉月くんは価値がないの?」



「うん」



「……」



違和感を覚えた。



ううん、本当はずっと違和感があったけど、気付いてなかったのかもしれない。



だけど、それ以上に優しい人だと信じていたから。



そもそも、疑うという感情を知らないだけなのかもしれない。