願う先にある想い

「美沙樹…?」



ドアノブに手を掛ける寸前に葉月くんの手に触れた。



左手は怪我しているから握れないので、そっと触れるだけにした。



「………」



足を止めさせたものの何を言うべきか考える。



いや、考える以前に伝える事など決まっている。



「あのね、葉月くん。
私は知って良かったって思ってるの」



「えっ」



「だってそうでしょ?確かに葉月くんが言う通り知らない方は幸せだったかもしれない。でも、それって反対に何も知らないから何も分からないんじゃないの?
必要のない事だったらいいよ。でも自分に必要な事で知らなかったら嫌じゃない」



知らないと何も分からない。



知らないと理解できない。



「私は知らない方がもっと嫌。心原の事だって美実さんの事だって知りたかった。お母さんが私に教えたく理由が私には分からない。だって、知っていれば、何かできたはずでしょ?」



葉月くんもきっと同じ事を思うはず。



何も知らなかったら、何もできない事と一緒だから。



「………」



葉月くんはふいに私の方へと体を向ける。



「葉月くん…?」



少しでも分かってくれるんじゃないかって。



美実さんのように揺れたらいいと思った。



けど私の言った言葉に葉月くんは響いているようではなかった。



「本当に…本当にそうかな?」



「えっ」



「本当に知っている方がいいと思うの?」



「だって知らない方が嫌じゃないの?」



「まあ、知らなきゃいけない事はあるよ?生活ややらなきゃいけない事だったらまだ理解できる。でもさ、たとえさ、それが自分自身の心の事だったらどうする?」



「でも、葉月くん。私にしつこく聞いてきたよね?」



あれは、今言ってる事と理に反している気がする。



「それは危険だと思ったから。心に傷は負わないでしょ?」



「傷って…」



「別に自身に関わっても身を削られようとしても言い返せばなんとかなるものはある。でも心に負って傷付いた気持ちはどこに持っていったらいいの?本当の事を知って、えぐられ取られるような感情はどこへ持っていったらいいの?他人に分かってもらいたいの?共感してもらいたいの?理解してもらいたいの?同情してもらいたいの?理解できる訳ないんだよ。一度傷付いた感情は戻らないし理解されたいと思わないんだよっ」



「…っ」



葉月くんにも同じように分かってほしかったから言ったまでだったのに、なのにそこまでイキり立つとは思わなかったんだ。