「あの……手大丈夫?」



静かな音の中、私はゆっくりと口を開いた。



「…あー全然。痛くて片手しか使えない」



「そっか…。ごめん…なさい」



私は葉月くんに謝りたかったんだ。



だから篠原くんに家の場所を聞いたんだ。



「……はっ?」



私の謝りに葉月くんは、はてなマークを頭に浮かばせて聞いてくる。



「何で謝るの?
美沙樹は別に悪い事なんてしてないよ?」



「でも、怪我させた」



「これは…」



葉月くんはそのまま怪我した左手を見つめる。



「俺がしたかっただけだよ。守りたかっただけ…」



(守りたかった…?)



そんな葉月くんまでそんな事を言うんだ。



「私は守ってもらえる程の価値なんてないのに」



お母さんは意味があると言ってくれたけど、鵜呑みするように美実さんに言ったけど、本心は自分に価値なんてあるはずないと思う。



「だったら、俺も同じように価値がないのかもね」



葉月くんは浮かない表現でポツリと言う。



「! …そんな事ないよ。葉月くんは優しいしみんなに頼られる、みんなから価値のある意味のある生まれながら持っている人じゃない」



そう、私とは正反対で生まれながらの才能の持った価値のある人だ。



そんな葉月くんが自分を卑下するなんておかしい。



「…君は優しいね」



「えっ」



私の目を見つめ覗かせる彼の瞳は、微かに歪んだ黒い感覚を感じた。



「っ」



「それがもし偽りの優しさだったらどうする?」



「偽り…?」



「それがもし本心じゃない優しさだったらどうする? 自分の事しか考えてない行動だったらどうする?」



それは問い詰めの質問だった。



自分は何なのか自分は本当は何なのか、その答えを私に求めたかったのか。



けど、私は葉月くんの言っている意味がよく分からなかった。



葉月くんは最初から優しく親切な人だと思い込んでいたから。