「美実さん、今知っていますか? どんな状況に置かれているか」



俺はあくまでも冷静に美実さんに問うた。



「ええ、知ってるわ。
私がやったから追っている事をね」



「だったら、俺が言いたい事分かりますよね?」



「ええ、分かるわ。あんたは端から一緒に来るつもりなどない。別の理由でわざわざ来たってね」



そう、この人はいつも俺の事を分かっているフリをして、俺をおとしめようとしている。



結局、俺も父さんもこいつに利用されていただけなんだ。



そして俺も気付いているフリをして、あえて受け入れていた。



おそらく何かを信じていたかったかもしれない。



そう、いつも俺は気付くのが遅いんだ。



気付いた時には失くなっていたのだ。



いつもいつもそうだ。



叶わないものを手にしたって何の意味も持たないんだ。



だからといって、奪われたものを仕返しにするのは、卑怯なやり方だ。



母さんと同じ生き方なんてしたくない。



したくないけど、俺はは母さんに恐ろしく似ているから。



それでも、今回ばかりは自分の壊れた感情を動かしたいと思うんだ。



「でも、拒否するわ。あの子は餌なの餌」



ああ、そう、この人はこういう人なんだ。



分かってた。



どんなに説得や交渉を試みても、この人の心は動かされる事などないって事を分かっていたんだ。



美実さんは自分の世界だけで動かしている人だから。



他人が入る隙など与えてくれない人だから。



「諦めた方がいいわ。だって、あの子は美実の子供として生まれて来てしまったから、こういう運命になるのよ。あの子は何にも悪くない。けど、私が許せないのよ」



「………」



「許せないのよ」



望んでなんかない。


誰もそんな世界など。