「美実さん、本当は愛されたかったんでしょ?」



誰も信じれない。



誰も理解できない。



誰も分かってくれない。



「本当はチャンスがあったんじゃなかったんですか?」



「うるさい…」



「でも、そうしなかったのはなんでなんですか?」



「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」



「っ!?」



煽るような言葉に美実さんはポケットから小型のナイフを取り出す。



ナイフの登場に空気が妙に凍り付く。



けど、入り口付近で様子を伺っているここあさん達は決して動こうとしない。



なぜ動かないかは分からないが、今はまだ捕まえないでほしい。



「あんたに何が分かるのよ!何も知らないくせに。
私の苦しみなんてわからないくせに!」



「分かりませんよ、そんなの。でも、分かります」



美実さんもここあさん達と同じように心の声にボヤが掛かって聞こえないけど、でも美実さんの心は酷く悲鳴をあげている感覚を感じるから。



苦しそうで辛そうで、そして助けてほしいって。



「私はお母さんやおばあちゃんやおじいちゃん達とは違います。何も知らなかったから、まっすぐに生きてきたから言えるんです。私はあなたの感じている苦しみを取り除きたいんです。助けたいです」



「………っっううっ」



地雷を踏んでるって分かってる。



殺気はないけど私を殺そうという行動心がある。



「美沙樹!?」



「ダメ、優弥」



空気が本当に凍り付いた。



ここあさんがお父さんがみんなが目を見張った。



まずい、このままだと刺される。



避けないと、そう思ったけど、体が動かない。



「っ!?」



目を強く瞑り、振り下ろされるナイフに声を出したのは葉月くんだった。



「いっ!?」



「!? 葉月くん!!」



振り下ろされる瞬間、ナイフを止めようと葉月くんは白石さんを振りほどき、刺されるのを阻止しようとナイフに手を伸ばした所を、刃の部分を左手のひらにグサッと突き刺してしまったのだった。



そしてカランカランと葉月くんの血が付いたままナイフは地面へと転がっていた。



「葉月くん!? なんで!」



痛みでうずくまる手に触ようとするが、葉月くんはそれを拒否る。



「言って!言わないと、言いたい事 全部言って!」



「あ…」



「美沙樹!」



そうだ、事故ぐらいで慌てていてもだめだ。



私はもう覚悟と勇気を決めたから。