゛本当は助けてほしかったんだ゛



゛美沙樹のような真っ直ぐな人間になりたかったんだ゛



゛壊れた感情を治したいんだ゛



゛本当は強くなりたかったんだ゛



『ねえ、母さん。母さんは心が壊れた時どんな感情でどんな気持ちだったんだろう? 戻る時ってどんな感情だったの?俺も戻れるのかな、昔のように真っ直ぐで純粋だったあの頃に』



「ー! 優弥ってば!」



「…父さん?」



声がして顔をあげると父さんの心配そうな表情が目に映った。



「よかった。
びっくりしたよ、全然部屋から出てこないから」



「………」



「大丈夫か?平気か?ご飯食べれる?」



「ごめん…今日はもうお風呂入って寝るよ」



「そうか、分かったよ」



フラフラと立ち上がり制服を脱ごうと、ブレザーに手を掛ける。



「ねえ、父さん」



「何だ?」



「俺は何ができるかな?」



「えっ?」



弱い感情を持った俺にはいったい美沙樹に何ができるのだろう。



何もできないのだろうか。



「美実さんがね、実の姉を殺した事件知ってるよね?」



「ああ…」



突然、なにを言い出すかと思うのだろう。



でも、父さんにとっても他人事とは言い切れないだろう。



「その人の娘が美実さんによって誘拐されたんだ」



「えっ」



「その女の子、俺の…クラスメイトなんだ」



「!」



「そして、共犯している子が歌菜なんだ」



「歌菜ちゃんて…あの子?中学の時付き合ってた」



「そう」



誰がなんと言おうと歌菜なんだ。



正直、美沙樹に対して友達と言えるのは疑問だったから、あえてクラスメイトと言った。



他の人と違う感覚があるのは確かだ。



ただ、なぜ好きだと思う感情に至ったのかは不明だ。



不明すぎてわからなさすぎてどうしようもない。




「その子を助けたいの?」



父さんは試すように聞いてくる。



「それは、助けなきゃだめなんだけど」



でも、助けるって事は美実さんと歌菜に向き合わなきゃいけない事になる。



つまりそれは、自殺行為と同じだと言える。



「でも、助けたいんだろう?だったら、その気持ちをなくしたらダメじゃないのか?」



「でもっまた壊れたら…今度こそ…おかしくなる。
母さんみたいに」



俺の訴えに父さんは静かな声で諭す。



「お母さんはとても弱い人だったんだよ。
優弥の心が弱いかもしれない。でも、強くもないかもしれない。でも、心はまだちゃんとここにある」



「そんなの……」



そんな事をはっきり言われても、自分がどうなるかなんて分からないし分かりたくもない。