願う先にある想い

その後、美実さんは何も言う事なく乱暴に扉を開けてまた出ていったのだった。



美実さんが出ていった後にすぐに病院へと向かった。



病院ではたまたま転けてその際にナイフが腕に刺さったという説明をしたらしく、傷は少し深かかったが血はなんとか止まってくれた。



父さんがすぐに止血してくれたからかもしれない。



そこまで酷くなかったが傷口からの痛みが痛かったのを覚えている。



けど、もっと痛かったのはナイフでグサリと刺された時が一番苦痛だった。



美実さんがあそこまでして止めて置いてほしかったのは、おそらくお金の為だった。



その為だったら刺した動機などどうでもいい事だと思っているのだろう。



病院から帰ってきた俺は痛みからなのか動けなくて、ベッドに倒れている俺に父さんは泣きながら『ごめんな、ごめんな。俺が我慢できないとか言って優弥に托したせいでこんな事に』何度何度も謝っていた。



『父さん、本当に弱くてダメだよな。だから、こんな目になったんだよな。傷付けてばっかりだ』



『……父さんは強いよ…弱いのは俺だよ』



父さんは昔から弱い人間だった。



気が弱くて内気で何をやっても上手く行かず、周りからはからかわれてばかりで友達が1人もいないと言っていた。



そんな俺とは真逆な性格の父さんだったけど、母さんと出会って自分に勇気を持てるようになったんだ。



父さんの方の親戚はいつもある言葉を父さんに向けられていた。



『お前は疫病神と結婚したんだ』



『彼女とはそうそうと別れるべきだった』



『だから自分にも仇となっている』



そんな身も蓋もない自分らの都合だけで述べられた発言ばかりを父さんに向けられていた。



母さんが問題を起こした事件に対してよく思っていない親戚達は、母さんの両親や父さんの両親や母さんが亡くなったのは母さん自身が疫病神だからなどと言っていた。



けど、父さんは悪く言う親戚達を許さなかった。



気が弱くて内気な父さんだったが、この時ばかりはとても強気だった。



『彼女は僕にとっては最高の女性で妻です。
あなた方が僕に好き勝手言っても別に構いません。ですが、彼女を悪く言うのなら許しません。確かに彼女は気が強く喧嘩早い人で問題を起こしたかもしれません。
けど、彼女は何も知らない人間にケンカを売られ酷く傷付けられたんです。彼女は疫病神でも悪い人間でもありません。か弱くて守ってあげないといけない人で、とても優しくきれいで僕にはもったいない女性だったんです。何も知らないで、ただ問題を起こしたからって表面上だけで彼女を見ないでください。あなた方よりもずっとずっと人間らしく素敵な人なんです』



担架を切った時の父さんはとても男らしく堂々していた。



すごくかっこよかったのを覚えている。



だから父さんは誰よりも強くてかっこいい人だ。



そして俺は誰よりも弱い人間だ。