「それは…そうだったら、どんなに良い事ですかね」



言い方としては嫌味に聞こえるるのだろうか。



俺が言った時の表情があまりにもドゲを感じたのだろうか。



2人は体を竦めて少しぴくっと驚いた表情をしていた。



何もなかったら、どんなによかったのだろうかと思う。



何もなかったら、俺はおかしくなっていなかったかもしれない。



なかったら、歌菜に対しても手を差し伸べて続けて助けられたのかもしれない。



「あの人は俺に恐怖しか与えませんでしたよ。
だって…いつも罵倒や嫌味しか言ってこなくて、口癖のように『殺してやる』と嘆いていましたからね」



「えっ」



「!?」



その言葉に2人は更に目を大きく張る。



「そう言いながらも、殺意というのは一切感じなかったんですけどね。ただ、一度も手を出された事はなかったんですけど、言葉で精神や心は本当にズタズタにされていたんです。あの人からは恐怖を与え続けられてたんです」



「…そうなんだ、今は大丈夫なの?」



「…っ…まあ」



また嘘を付いた。



大丈夫な訳ないのに。



大丈夫な訳あるはずないのに。



今でも苦しいのに…。



「あの時が苦しかっただけで、今は大丈夫だろ。
ごめんな、辛い事を思い出させたかもしれないな」



「……」



美沙樹のお父さんのその言葉には違和感というものがあった。



俺は思わず瞳を大きく見開き呆然となった。



ああそうか、この人は普通の人なんだ。



俺の父さんみたいに弱っているものを目に前に着面していないんだ。



ただ、聞かされて知っていて家族になっているだけなんだ。



いや、違う。



直面しているけど、美沙樹や美沙樹のお母さんを守れるならそれだけでいいと感じている善人なんだ。



普通はそういうものだろう。



他人より自分で自分の家族だ。



本当は理解していないのかもしれない。