「すいません、俺がもう少し早く気付いていれば」



「いや、君のせいではない。そして、響のせいでもない。俺達がもう少し気を張ってれば」



それも違うと思う。



美沙樹のお父さんや天仲さんのせいでもない。



そうさせたのは歌菜で実行したのは美実さんだ。



だからといって、全てが2人に非がある訳ではない。



美沙樹から聞いた美実さんの生まれ環境というのは、なんとなく歌菜と似ているんだ。



あいつは両親から軽蔑や罵倒されて育てられてきた。



だから、どんな時にも原因というものは付きものである。



この場合だと生まれ環境に原因があると考えられる。



だからかもしれない。



歌菜があの人と一緒にいて過ちを犯している理由は分からないが、もし理由としてあるのならそれしか考えられない。



歌菜はおそらく…美実さんに何かしらの共感や同情を向けているのだろうか。



でも、歌菜を追い込ませたのは俺が指し伸ばせてあげる手を辞めたから。



俺の精神が弱かったからだ。



今だって弱いから。



強くなんかないから。



「でも、もしすぐに殺されたりしないかな?
でも、見てないから大丈夫だと思うけど」



天仲さんは不安気に動揺しながら呟く。



(殺される?)



確かに殺そうと思ったから誘拐したのだけど、すぐには殺さないのではないか?



確かにあの人は狂気を持っているけど、美沙樹にはそこまで狂気を持っていないのでは?



家族全員殺すという目標はあるみたいだけど、でも憎しみをそこまで持っていない人間はすぐには殺さない気がする。



何かを待っているかもしれない。



「確かに、でもすぐには殺したりはしないんじゃないか?」



おじさんは俺と同じ考えを動揺している天仲さんに言う。



「なぜ?」



「ほら、響が3歳の時にも拐われた際も殺さなかっただろ?それに見てないんだろ?」



「でもあれは、由理ちゃんを待っていただけでしょ?
でも今回は…それに予想外で起きる事もあるから」



「待っているんじゃないですかね?」



そう、待っていると思う。



1人だったらすぐに実行すると言えるけど、けど今回は歌菜がいる。



だとしたら、すぐには殺されない。