昼食を終わった後、私は中庭にある自販機にジュースを買いに来ていた。



「…あっ」



買ったジュースを持って教室がある校舎に戻ろうと踵を返すと、ベンチスペースで1人ぽつりと葉月くんが黄昏れるかのように座っていた。



(葉月くん…)



「あっ」



すると不意に彼と目が合う。



と、葉月くんはニコッと微笑み手招きをする。



「えっ」



私は少し戸惑いながらも、彼の誘いに素直に近寄った。



私はほんの少し間を開けて隣に座った。



「やあ」



「どうしたの?」



「何が」



「なんか考え込んでる?」



「そりゃあね」



おそらく篠原くんの事だろう。



「篠原くんの事?」



「まあ、そうだね」



篠原くんは私が葉月くんと距離が近付いている事が嫌なのだろうか。



「知っていたんだよ、あいつの気持ちは。
ずっと前から。歌菜おかしくなっていてもあいつはずっと好きでいたんだよ。けど、俺にはそれが理解 出来ずにいたんだ」



葉月くんは、篠原くんと友達とありながらもどこかすれ違いという感情があったのかもしれない。



「葉月くんは白石さんが嫌いなの?」



「ううん、全然。
最初は好きだったんだから、そんな事ないでしょ」



「そうだよね」



好きで付き合った訳だから、嫌うはずないのだろう。



葉月くんにとって白石さんは特別で心に残っている人なのだろう。



「歌菜を本気で好きだったからこそなのかもしれないけど、変わってしまった歌菜を元に戻す事は出来ないのは分かってる。それでも、歌菜の事を見過ごす事は出来ないんだ」



「葉月くん…」



もしかしたら、葉月くんは白石さんが豹変してしまったのは自分のせいだと思っているのかもしれない。



だからなのだろうか。



彼は白石さんに恋愛感情はないと言うけど、本当は心の奥底ではまだ好きでいるのではないかと思う。



「あのね、葉月くん」



私はきっと葉月くんに白石さんの事に対して何も言えないのかもしれない。



それでも白石さんや美実さんの事を伝えなければいけないのは事実で、それがどんな気持ちであっても。



「あっそろそろチャイム鳴るね。戻んないと」



そう言って、葉月くんはベンチから立ち上がる。



「ほら、戻ろう」



「あっ」



このままタイミングを失うとずっと言えない気がした。



私は慌てるように葉月くんに声を掛けた。



「葉月くん」



「ん?」



「私…やっぱり葉月くんに知ってもらいたいよ。
知って貰わなきゃダメなの」



「……」



私の言葉に葉月くんは一瞬、固まったような表情をしていたけど、すぐに頬が緩む。



「ありがとう」



そう言って、葉月くんは笑顔を向けて教室の方へと歩き始めた。



葉月くんってやっぱり少しずるく感じる。



なんでだろうな。