お母さんの部屋を後にし、最後にある部屋の前へと訪れていた。



そうここは……。



「ここは?」



「ここは、由理ちゃんのご両親の部屋よ」



「!」



(おばあちゃんとおじいちゃんの部屋)



ここあさんの話では、美実さんによってここでおじいちゃんとおばあちゃんが殺された場所。



「ここはやめておきましょうかね」



「……そうですね」



〈この部屋に入るのはつらいな〉



「!」



(えっ)



不意に聞こえた、ここあさんの心の声。



ボヤがかかって聞こえなかったのに、なぜかその時は聞こえた。



(なんでだろう)



多分、何か意味があったから聞こえたのだろう。



なんとなく、ここあさんの気遣いで入らなかったんじゃないのかと思ってたけど、ここあさん自身もこの部屋に入るのは、どこか後ろめたい気持ちがあるのだろう。



だから、入るのを避けたんだ。



ここあさん自身も、本当の意味では何も癒えていないのだろう。



「じゃあ、戻ろっか」



「はい」



《お願い…》



「えっ」



部屋から離れようとしたその時、不意に聞こえたここあさんではない誰かの声。



思いかげず扉の前を見る。



(まさか…)



恐る恐るその部屋のドアノブに手を掛けようと伸ばしたその時——。



「どうしたの?」



「!」



ここあさんの声に伸ばしていた手を引っ込め、すぐにここあさんの元へと駆け込んだ。



「ううん、何でもないです」



「そう」



何だったんだろう、さっきの声。



まるで、私に呼びかけているみたいだった。



きっと、気のせいだろう。



「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」



「はい」



先程聞こえてきた声を気のせいと置いておき、私はここあさんと玄関に向う。



靴を履き外に出ようとしたその時だった。



きっと気のせいだと思い込んでいた、あの声がまた聞こえてきたのだった。



《お願い…待って!》



「!?」



ばっと私は後ろを振り向く。



「……っ」



(まただ…またあの声が)



「どうしたの?」



「あの…」



きっと気のせいなんかじゃない。



これは私に向けて訴えていたんだ。



何かを伝えようとしているんだ。



「すいません、忘れ物しちゃったみたいで取りに行っていいですか?」



「あら、そうなの?じゃあここで待っとくわね」



「すいません、すぐ戻ります」



私は軽い嘘をここあさんについて、上へと上がっていった。



あの人のいるあの部屋に。