『教えられない』



私ははっきりとそう答えた。



決して咄嗟に言った事でもわざと言った事でもない。



本心で言ったまでの事だ。



『は?』



『あなたには由理華の居場所は教えられないわ』



『………』



お願い、これ以上由理華の生活を壊さないで。



私は心に強く念じると、想いが通じたのか何かを言う訳でもなく、そのまま去って行った。



もしかして、理解してくれたのだろうか。



そう思ったのも束の間、その後も美実は何度も何度も由理ちゃんの居場所を知る為に訪れてきていた。



だけど、私は一度たりとも教える事はしなかった。




それから、何ヶ月が経ったある日の事、家に帰り扉を開けると違和感を感じた。



『あれ?扉が開いてる』



扉がなぜか開いていた。



家はオートロック式でロックキーが壊れている訳でもなく、扉が壊れている訳でもなかった。



なぜ、開いてるんだろうか。



もしかして美実が開けたというのだろうか、でもなぜ?



暗証番号は知らないはずだし教えていないと思うが。



疑問を感じながら、リビングに入ると驚愕の光景が目に映った。



『!?』



リビングが散らかっていて、まるで泥棒が入ったかのようだった。



泥棒が入ったと言っても、散らかっているのはリビングに置いてある引き出しや棚辺りだけだった。



引き出しに散らかされている書類などを見ると、ある事に気付く。



『由理ちゃんの住所の紙がない。…っ』



動揺が走った。



響ちゃんが攫われた時のように動揺が走った。



私は慌てるように電話の受話器を手に取った。



【プルル——】



通信中、私は心の中で『お願い、出て!』と強く願いながら出てくるのを祈った。



『由理ちゃん』



《ここあ?どうしたの?なんか慌ててるようだけど》



『由理ちゃん、大変!
美実が美実が由理ちゃんの所に来るかもしれない!』



《えっ》



『ごめん、由理ちゃん…。
住所の書いた紙隠していたんだけど、美実に取られて』



《…そう》



『由理ちゃん』



《大丈夫よ、大丈夫》



『由理ちゃん?』



もしかして、由理ちゃんはいつかこうなる事を理解していたのだろうか。



だから、そんなに冷静なのだろうか。



本当に大丈夫などの言葉を言えるものなの?



私は由理ちゃんの気持ちが分からずにいた。