『許さない…絶対に許さない。あんたなんか最低よ…』



あんなにも悔しがる由理ちゃんは初めてだった。



ご両親が殺された際も由理ちゃんはその場で泣くことはせず、1人でなった時に小さく泣いていた。



だから、こんなにも大きく表現する由理ちゃんは初めてだった。



『だったら、殺せばいいじゃない!腹立つのだったら憎んでいるのだったら、嫌いなら殺せばいいじゃない!』



なぜ、美実はそうまでして゛殺す゛という言葉を連呼するのだろうか。



私も由理ちゃんも美実を理解できずにいた。



そんな感情、絶対に理解できるはずがない。



『殺さないわよ、そんな事をして何になるのよ。何も報われないじゃない。私はあんたと同じ犯罪者になるつもりなんてないわよ』



由理ちゃんの目は虚ろでもない、まっすぐな瞳で見据えていた。



いつだって、由理ちゃんは間違いなんてしていない。



ただ、タイミングが削がれてしまっていただけなんだ。



でも、そんな由理ちゃんの気持ちに美実は理解するはずもなく、次の瞬間、目を疑うような事を起こし始めたのだった。



『そう、だったら私が殺してやるわよ、あんたの大事なもの全部』



『えっ』



そう言った美実はぐったりしている響ちゃんに近付く。



『何をする気?』



『ねえ、幼児って簡単に死んじゃうよね』



響ちゃんはぐったりしているように見えるけど、おそらく寝ているだけだと言える。



美実は響ちゃんの口を抑えて鼻を掴もうと手を伸ばす。



『やっめて!?』



(嘘でしょ!)



由理ちゃんは駆け込むように美実に近付くが『邪魔だ』と体を投げ飛ばし、その場に由理ちゃんが倒れる。



『由理ちゃん!?』



すぐに由理ちゃんに近寄ったが、響ちゃんに美実の魔の手が近付いていて、私も同じように助けに入ろうとした時——。



リビングに1人の男性が入り、そのまま風のように響ちゃんの鼻に触れた瞬間に、その人によって両手首を上へと持ち上げられ阻止をした。



『桜戸…さん』



頭に包帯が巻かれ少し頭が痛むのか難しい顔をしながらも、必死に響ちゃんを守ろうと美実の手首をぎゅっと掴んでいた。



治療してもらい、すぐに来てくれたんだ。



『ここあちゃん、外に警察の人来てるから』



『あ、わかったわ』



家に入った際、玄関で由理ちゃんに警察を呼ぶようにお願いしてた。



でも、来ても決してインターホンは鳴らさず待っててほしいと由理ちゃんが言ってたから、通報した時に警察の人は承諾してくれた。



私は急いで玄関へと向かった。



そして、美実はとうとう捕まり逃亡歴に終止符が打たれた。



『響!』



ぐったりしている響ちゃんに桜戸さんは優しく抱きかかえ、息をしているか確認するとほっと安心した表情で由理ちゃんに渡した。



『ああ、良かった、無事で。ごめんね、怖い思いをさせちゃって。…ふっうっ…ああっ…ううっ』



『由理ちゃん』



由理ちゃんは怖かったのか悲しかったのかは分からないが、響ちゃんを抱いた瞬間、崩れるかのように鳴き始めた。



きっとご両親や美実に対して色んな思いからの悔しさから出た涙だったんじゃないかと思った。



『もう、大丈夫だから』



『うん』



響ちゃんを抱きながら、桜戸さんは由理ちゃんを優しく抱きしめる。



『ん…あ…ママ?』



『!』



『どうしたの? …ないてる?』



『ううん、なんでもないよ』



響ちゃんの顔にほほずりする由理ちゃんの表現はとても嬉しそうで穏やかな表情だった。



この時、私は思った。



この家族は、決して壊させたりしたくないと。



どんな事があっても傷付けさせたくないと、本気でそう思ったんだ。



どんな形であろうと由理ちゃんは幸せになるべきなんだと。



たとえどんな未来が待っていようが。