第三話 ー始ー

廊下で偶然会った、自然研究部の副部長さんから体験入部のお誘いを受けた僕、須藤暁。
そういえば、彼女の名前をきくのも忘れていた事に家に帰ってから気づいた。

「明日、2階の端っこにある物理室に来てな!…か。」

彼女の下手くそな方言を真似して、独り言を呟く。そんな独り言を咎めてくれる家族は、僕にはいない。
僕の家には、母と兄が住んでいるけど、二人とも帰ってこないことの方が多い。

母は仕事で、兄は……大学生だから遊んでいるのだろうな。
僕はそれを寂しいなんて思わないことにしている。
むしろ、ゲームをいくらしていても、お菓子をいくら食べても、何をしていても怒られることなんてないから僕からしたら至福の時間だ。

多分、こうして一人の時間ばかり過ごすようになってからなんだろうな。
僕が大人数が嫌いで、部活に行かなくなったのは。

僕だって中学生の頃はきちんと部活に入っていた。毎日真面目に行ってたし、部員メンバーもいいやつばかりで仲良くしていた。

だけど、いつしか僕にとって、部活に行くことが苦痛になっていた。
あの賑やかで温かい空間、帰ってくると真反対になる世界に「自分のいるべきところではないのではないか」なんて思っていた。

それから僕は部活に行かなくなっていた。
僕はこれの理由を、単純に大人数が嫌いと言ったけど、きっとそんな簡単なことではないんだってことに自分でも気づいていた。

「続かないんだろうな、今回の部活も」

ただ、彼女の真剣な眼差しが、誘いを断ることを許してくれなかった。
僕はきっと入ることのないだろう自然研究部の体験入部に、明日は行くことになるんだろうな。

そう思っている間に、眠ってしまっていた。


第三話ー終ー