「エマがこんなところにいるなんて知らなかったわ。らせん階段の方から来れば会わないと思ったのに」
 ジュリアは目に見えて青くなった。

「エマって誰? 今しゃべっていた女の人? なんだか意地悪な感じがしたけど」、眞奈は心配になってジュリアの顔をのぞき込んだ。

「べつになんでもないのよ」、そう言いつつも、ジュリアの表情は暗かった。

 もっとも彼女は元々亡霊で死んでいるのだから、多少顔色が悪くても心配する必要はないのだろう。それでも友達になった以上、眞奈は気になった。

 エマは何者でジュリアとどんな関係なんだろうか? 何かトラブルが起きようとしているのだろうか。

 眞奈はドアの向こうの会話に耳をそばだてたが、エマと三人目の亡霊のその後のセリフは、エマが興奮を抑えたのか声が小さくなり聞き取れなかった。

 そして、さらに追いうちをかけるように眞奈の目に入ったのは、向こうからやってくる四人目の亡霊である。

 紺色のワンピースにレース飾りのついたエプロン。典型的なメイド服を着ている少女だ。
 いや『メイド服を着ている』というより、昔のイギリスの亡霊なのだから、彼女はパン屋やカフェのウェイトレスとかコスプレ女子とかではなく、正真正銘、本物のメイドにちがいない。

 オースティン校長先生が話してくれたウィストウハウスの伝説では『大昔に死んだ女の子の亡霊』一人だったはずなのに、なぜ、こんなにわらわら亡霊がわいて出てくるのか、ウィストウハウスは今や亡霊だらけなのだろうか……。

 メイドの少女は、眞奈やジュリアよりも少し年上だった。
 体調が悪いらしく、青白い顔をして時おり咳も出るようだ。彼女に関しては確かにちゃんと亡霊らしく見えた。

「まぁ、グラディス!、どうしてここにいるの?」、ジュリアはメイドの女の子に言った。