走って逃げようか、それともどこかに隠れようか。

 しかし眞奈の体は動けず、かろうじて近くにあったカーテンの横に退いただけだった。

 女の子は落ち着いた足どりでこちらに向かって来た。

 眞奈が驚いたことには、彼女はあまりにリアルで、きちんとしていた。影が薄いところやその他不安を感じさせるところはなかった。
 それどころか頬には血色があり、息づかいも感じられる。彼女は完璧に普通の人間のようだ。

「あれ、もしかして亡霊じゃない?」

 眞奈は亡霊かどうかを確かめるために、カーテンの影から女の子をこわごわ観察した。

 眞奈より少し年上で十六、七歳ぐらいだろうか。つややかなブロンドの長い髪に紫がかった紺色のひとみ……。

 女の子はイザベルそっくりだった。

 眞奈は思わず「イザベル?」と呼びかけた。

 イザベルと呼ばれて女の子はカーテンの横の眞奈に気がついた。

「あら、こんにちは」、少女は眞奈を見て微笑んだ。

 彼女の方は眞奈に会ってもちっとも動じていない。そして不思議なことを言うのだった。
「また迷っているの? あ、でもこの間は小さな男の子だったわね」

 眞奈は女の子の意外な言葉に驚き、怖いのも忘れて口にした。
「また? 男の子?」

「そうよ。その男の子はあなたの友達でしょ?」

「……私はその子、知らないわ」、眞奈は困ってしまった。

「だって、その子もあなたのと似ている服を着ていたわ」、女の子は眞奈の制服を指さした。

 眞奈はすぐ彼女の言っていることに合点がいった。

 そうか、もし大昔の亡霊なら、ウィストウハウス・スクールは当然まだここにはないからこの服が学校の制服だって知らないはずだ。

 そして亡霊の子が言っている小さな男の子とはマーカス・ウェントワースではないか、そのことが眞奈の頭をよぎった。

 亡霊と会ったことのある男子生徒なんて、そう何人もいるはずがない、絶対マーカスにきまってる! 

 それがわかれば眞奈は亡霊の女の子が怖くなくなった。眞奈は女の子を初めてまっすぐ見つめることができた。