今来た道を戻るのは、これから二〇八号室まで行くのよりは簡単なはずだった。

 ところが気ばっかりせって、今度はさっきと違う階段を使ってしまったらしい。

 ウィストウハウス・スクールでさらに行く手を混乱させるのは『階段』だ。

 例えば、本館の一階にある階段がすべて二階につながっているわけではない。一気に三階にたどり着く階段もあれば、中二階止まりの階段もある。

 運良く二階につながっている階段だったとしても、お望みの教室に面している廊下にうまく出られるかはまた別問題。

 つまり間違った階段を上ると、同じ二階のはずなのにそこは廊下違いの見知らぬ世界……ということになるのだ。

 そういう意味では、ウィストウハウス・スクールの階段はファンタジーへの入口といえた。

 眞奈は、お屋敷の中をぐるぐるまわり続けていた。もう自分が何階にいるのかもわからない。

「ともかく今はどこかに向かって進むしかないわ!」

 眞奈が何階かの廊下を曲がると、つきあたりにやっと人が一人通れるぐらいの、とても小さくて質素ならせん階段があった。

「大階段の真鍮の支柱やピンクのじゅうたんと大違いね、召し使い専用の階段かもしれない」、眞奈は思った。

 召し使い用の階段があるというのは聞いたことがあったが、今まで実際には見たことがなかった。
 人間の『階級差』を普段意識したことのない眞奈にとって、そのらせん階段はめずらしいもので興味深かった。
 同時にもの悲しさも感じずにはいられないが。