マーカスとイザベルが去ってほっとするのもつかの間、眞奈の携帯の着信音が鳴った。

「なんだ、ウィルか。驚かせないでよ」、半ばほっとして、半ば気が抜けたように眞奈はメールを開いた。

 ジェニーとうまく落ち合えた。彼女は今日もかぁいいぜ。映画よりも彼女の顔を見てたいよ。宿題があったら教えてくれるかい? マナ、君は俺の星だよ☆☆☆

「なーにがあんたの星よ、ほんと調子いいんだから!」

 眞奈は軽くため息をつくと、改めて辺りを見回した。

 大階段ホールにはもう本当に誰もいない。全員ランチに行ってしまった。

 ウィストウハウス・スクールは元々生徒数がそんなに多い学校ではないので、教室移動の一時を過ぎると階段ホールや廊下はひっそりしてしまう。

 ウィルがいなくなってからそんなに経ったわけでもないのに、まるでかなりの時間が過ぎてしまったように感じる。

 今まで学校でウィルがそばにいないことは一度もなかった。いつも彼の後にくっついていた。

 いなくなって初めてわかるウィルのありがたさ。頭では理解していても、心では忘れかけていたのかもしれない。

 眞奈は気を引き締めた。

 これはウィルへのいい恩返しの機会だ。
 宿題の場所を教えたり、ノートを貸したり、私だって何かの役に立つはず! 

 迷って遅刻したら困るから、ランチの前に二〇八号室の場所だけチェックしておこう。さぁ早く探さなきゃ。

 眞奈はマーカスの道案内を思い出そうとしたが、あのとき緊張して上の空だったため記憶はおぼろげだった。
「東階段を上って廊下のどこかを曲がったところって言ってたような……」

 眞奈は記憶のカケラを頼りに廊下を歩きはじめた。