それから一週間ぐらいたったある日。
もう大河に会えるという思いは半ば諦めていた時、学校の校門の駐車場に〇〇出版と大きく書かれた車が停まっていた。

一瞬、心が大きく踊った。
もしかして、大河?
大河が来てる?

心は高鳴ったけれど、もし違っていたらショックが大きいので、あまり期待しすぎないように自分をけん制した。
落ち着け。
もしかしたらきてるのは他の人かもしれないじゃない。
でも、もしかしたら、もしかしたら…

自分をけん制しながらも、はやる気持ちは抑えられなかった。

きっと大河が来てる。
きっと大河に会える。

どこかでそう信じていた。

職員室に急ぐと、出口で大河にぶつかりそうになった。
ずっと会いたかった人。
もし大河が来てたらここに来れば会えるんじゃないかとは思っていたけれど、まさかこんな会い方をするなんて。心の準備もないまま言葉が出てこなかった。

「あ、ごめんなさい」
大河はぶつかりそうになった私に謝ってそのまま出て行こうとした。両手には相変わらず腕いっぱいの本の山。

大河が本を落とした時のことを思い出して思わず笑みがこぼれた。

「あ、あの」
私はその背中に向けて声をかけた。思った以上に大きな声で自分もびっくりした。

その声に大河は首だけこちらを振り返った。
「あ、君。あの時の生徒さん」
覚えていてくれたんだ!
嬉しい。

「あ、あの」
私は勇気をふりしぼった。
「山下大河さん、私杉山みなみって言います」
名前をいうのはドキドキして、思わず声が裏返った。でも、もう思いがあふれすぎて、伝えないという選択肢はなかった。今度いつ会えるのかわからないと思ったら、今日会えた奇跡にチャンスを活かしたいという思いで必死だった。

「へえ、杉山みなみさん…かあ」
大河はそれ以上言葉が続かなかったようだ。気まずい空気が流れた。
「あ、あの…、その本どこに持っていくんですか?」
「ああ、資料室だよ。これから旧本と新本の入れ替えをしないとならないんだ。かなり量があるからねえ、正直ゆううつだよ」
「て、手伝いましょうか?」
大河は突然の申し出に驚いた顔をしてこちらを見た。
「え、手伝ってくれるの?それは嬉しいけれど…。けっこうしんどい作業だよ?」
「いいんです。どうせ私暇なので」
「本当に?なんかのドッキリじゃないよね?」
ふっと大河が笑った。
あ、この顔。この顔が見たかったんだ。
その顔がまぶしくて、私もつられて笑った。
「違いますよ。私も大河さんともっとお話がしたいんです。一緒にお話してくれますか?」
「え?そうなの?突然モテ期来ちゃったかな?」
自然と大河さんという言葉が出てしまい、内心慌てたけれど、大河の顔は冗談を言いながらも真っ赤で、そんなこと気になっていなかったようだった。
かわいい!
この人も緊張しているんだ!
大河は私よりもずっと年上だったけれど、まるで同級生のような距離感を感じた。男の子の同級生がいたらこんな感じかな?