私のそばにはいつも楓子がいた。楓子のいる日々は毎日が彩りに満ちたものだった。
だから、私はほかに友達がいなくても全く気にならなかったし、もしかしたら、私は楓子の親友という座にあぐらをかいて、調子に乗っていたのかもしれない。優越感を感じていたのかもしれない。楓子にとってはそういう私は重たかったのかもしれない。
ある日、楓子が突然言ったんだ。
「交換日記やめない?」
「え?」
私はかなり衝撃を受けた。
確かにその頃には、私ばかりがたくさん書いて、楓子からはほんの数行しか書いて戻ってきていなかった。楓子はどうもかなり文を書くのが苦手なようで、いつも負担を感じていたようだった。だけど、私は書くのが面白かったので、楓子にお構いなしに私ばかりが書いていた。そして、なんで楓子はいつもこんなに少ないんだって不満まで感じていた。
「そんなこといわないで続けようよ」
「だって、そんなに書けないもん」
「そんなことないよ。思ったことをなんでも書けばいいんだよ」
「でもさ、私バスケの大会が近くて、最近毎日部活がハードなんだもの。書いている暇がないよ」
「そんなこと言わないでよ。ひどいよ」
「だって…」
「じゃあ、じゃあさ、せめてこの1冊が終わるまで続けようよ。それからまた考えよう」
「えー」
楓子は不満そうな声を出した。
私だって不満だよ。私だって…。
その言葉をあえて飲み込んで、その代わり、私は楓子の声を無視した。
「これノート」
あれから、交換ノートが戻ってきたのは1日後のことだった。
「あ、ありがとう」
隣の楓子のノートを持った手がぬっとこちらに伸びたので、無意識にノートを受け取った。
「うん」
そういって、楓子はそっけなくどこかに行ってしまった。
もしかすると、楓子の中にも罪悪感があったのかもしれない。
いや、でもそうならば、あんなことわざわざしないんじゃないか?
もしかすると、ちょっとしたデリカシーのない行為にすぎなかったのだろうか。
いまでも私はあの時の楓子の気持ちがわからない。
あんなこと。
ノートをあけて、私は一瞬で凍り付いた。
ノートにはたくさんの文字。見慣れた楓子の文字もあったが、明らかにそうでない文字の方が多かった。
絵も文字も、縦横無尽に書かれていて、まるでノートを広げてみんなで落書きをしたかのようだった。
「バスケの試合はもうすぐ!みんながんばろう」
「眠いんですけど。授業が眠い、なんとかならないか。」
「明日みんなでカフェに行かない?レモンパイのおいしいところ見つけた。600円也」
「楓子は私のものだ~!誰も手出しはするな。手を出したものは…切る!」
「楓子love♡ 楓子がいないと私死んじゃうの…。だって、楓子は私の“親友”だから。楓子がいないと私はボッチ決定。寂しいわ。楓子、愛している。いけない恋に走りそう…」
こんな落書きが何枚にもわたって書かれていた。
そして、楓子の字で、
「ノート3枚完了!よくがんばりました。あと残り1枚。ゴールはもうすぐだ!!がんばれ!」と書かれていた。
ドクドクドク。
心臓の鼓動が早くなった。頭から血がさっと引いたように、手の震えが止まらなかった。
これ、どういうこと?
いたずら?
でも、楓子がノートをくれたんだよね?だったら、楓子が関わっているはず。
これ、楓子の指示?楓子がみんなにやらせたの?
このノート、みんなに見られた!?
楓子が見せたの?
いやだ!二人だけの秘密だったのに。ひどい。裏切りだよ。
楓子は…楓子は私のことそんなにうざいと思ってたんだろうか?
そこまでした早くノートを終わらせたかったのだろうか?
なんで?なんで?
私、楓子に何かした?
