高校生活はバラ色だと思っていた。
受験勉強をがんばって入った高校だった。
高校はこの地域では、わりと名の通ったレベルの高いお嬢様高校だった。入学パンフレットを見て、紺色のワンピースの制服がかわいくて、あこがれたんだった。
だから、合格したときは、父さんも母さんもとても喜んでくれた。
「おまえは父さんの自慢の娘だよ」
そんなふうにいわれて、とてもくすぐったい気持ちになったのを覚えている。でも、うれしかったから、この高校に入れて心から良かったと思ったんだ。
きっと兄さんは私と比べられていい気分ではなかったんだろう、まぐれだなんて嫌味をいったけれど…。

でも、頑張った甲斐の合格、これからやってくるであろう新しい生活に、私は心をときめかせていた。

なのに、いつから歯車は狂ってしまったんだろう。少しのボタンのかけ違いで、いつの間にか高校の中に私の居場所はなくなった。

初めてのクラスで隣に座った楓子。
ずっと親友だと思ってたのに。

バスケット部出身の元気な女の子だった。
高校に入学するなり、バスケ部に入ったようで、机の横には常にクラブカバンがぶらさがっていた。
私とは正反対のタイプ。
私の学校は中学から上がってきた子がほとんどで、私はその時はまだ友達がいなくて、だれか友達になってくれる人いないかなって思ってたんだけど。
彼女とはきっと合わないだろうなあって思ってた。

ある日テストがあり、楓子が消しゴムをなくしたようであちこちを探していたんだ。
チャイムがなるぎりぎりまで探していたようだけど、結局みつからなかったようだった。
気の毒になった私は自分の消しゴムを半分に割って楓子に差し出した。
「使う?」
楓子はびっくりしていたけれど、それから二人はなかよくなったんだ。
「ねえ、今度一緒に遊びに行かない?」
そう誘ってきたのは楓子からだった。
「ブラックドックって知ってる?私の好きなバンドなんだ。一緒に見に行かない?」
私はバンドなんて何もしらなかったし、そんなところ行ったこともなかった。
楓子はブラックドックのボーカルにぞっこんでいつもいつも結婚したいっていっていた。
私はあまり興味もなかったけれど、なかば強引にライブに連れていかれることになった。

初めてのライブ、初めての「ブラックドック」はすごかった。
大音量の中、ファンたちの熱気に圧倒された。そして彼らのオーラもすごかった。きらきらと輝いていた。
特にファンでもない私でも興奮した。

それをきっかけに私と楓子はどんどん仲良くなっていった。
一緒にお弁当を食べ、宿題をし、一緒に笑ったりばかやったりした。
毎日バスケ部のある楓子とは放課後なかなか予定も合わなかったので、その代わりに二人は交換日記をするようになった。初めは日程調整のため、そのうち、日々の生活のことについて書いたり、テレビや読んだ本のことについて書くようになったりした。そして、悩み事や内緒話なんかもノートを通じてたくさん相談した。
楓子と私は親友ではあったけれど、楓子は私と違ってクラスに友達がたくさんいた。
明るい楓子は誰とでも仲良くなれたし、バスケ部の中でも女子校の王子様のようにかっこいい存在だった。

だけど、私はなんだかほかの子にはあまりなじめなかった。

私のように高校の段階で入学した子が少なかったし、独特なお嬢様雰囲気がなんだか合わなくて、ちょっと卑屈になっていたところもあったのかもしれない。