私があの時学校にスマホを持っていかなければ。
親に大河のことがばれることもなかったのに。

ちょっとした気のゆるみで、大河にLINEを送りたいと思って、学校のろうかでスマホを覗いたのが運の尽きだった。

いつもだったら、そんなこと絶対にしなかったのに。
あの時は、掃除の班決めがあって、ひとりぼっちだってこと強く意識させられて、大河に聞いてもらわないと平常心が保てそうになかったから。

ついつい無防備にスマホを出してしまい、よりによって生徒指導の先生に見つかってしまいアウト、没収されたんだ。

学校はスマホ禁止だったし、男女交際も禁止だった。
なのに、私は両方とも校則を破ってしまった。
そして、大河とつきあっていること、ずっと内緒にしていたのに、よりによってLINEを見られて、先生にばれてしまったんだ。

それからは散々だった。
親が学校に呼び出されて、両親に大河のことが知られてしまった。
母さんは私が誰かと交際をしているだなんて全く知らなかったから、ショックのあまりヒステリックに私をののしった。
父さんはスマホを解約するといって私からスマホをとりあげた。私は何度もスマホを死守しようと思ったんだけど、大河に直接連絡をするみたいなことをいわれて、抵抗できなかった。
兄は…。私のことを茶化し、私が怒られているのをすっかりイベントのように楽しんでいた。

そして、スマホを取り上げられてからは、私は大河と連絡を取るのもままならず、毎日毎日大河の仕事が終わるのを大河の会社の前で待っているしかなかった。

「そっか」
大河は泣きそうな私をなだめるようにそういった。
きっと、大河も何か言いたかったんだろう。だけど、言わない。それが大河のやさしさなんだろうと私は思った。

駅にはもうすでに私が乗るべき電車が到着していた。
大河は私をすばやく電車に乗せて、電車が発車するまで扉で見送ってくれた。

「一体いつになったらちゃんと会うことができるの?」
私は気づくとそんなことをつぶやいていた。

それこそわかっている。
そんなこと大河に言っても、大河だってわからないってことを。

大河は私の髪をくしゃっと撫でた。

「大丈夫だよ。いつかはきっといい方向に向かうはずだよ」
大河は嘘とも慰めともわからないようなそんなあいまいな言葉を私に投げかけた。

電車の扉は時間とともに閉じられた。
大河は少し笑って、そっと手を振った。

私も思いっきり無理やり笑顔を作った。
どうせなら、大河に笑ったところを覚えておいてほしいから。
だけど…。心はどんよりとしていた。

はあああ。
大きなため息をつく。
もう何度、こんな大きなため息をついてきただろう。
大河と私、付き合い始めたときは、毎日がウキウキしてとても楽しかったのに、今は恨み言ばかりがたまっていく気がする。
だけど、口から出そうになる恨み言は、吐き出す前に飲み込んだ。
もう、楓子のように大河も失いたくはなかったから。