いま、17:30。
早く早く。話をする時間がなくなっちゃうよ。
心の中で焦る。
まるで砂時計の砂がするすると流れていくように時間が流れていく。
ひっそりとただ待つだけの時間。
気づくといったいどれぐらいの時間を積み重ねてきただろう。
スマホでもあれば、私の行動も行動を制限されず、自由に行動もできたのに…。
ふう。
スマホがないことがこんなにつらいとは思わなかった。
あの時、あんなミスをしなければ…。
思わずため息が出る。
だけど…。
ふと、ここ一か月の行動を振り返ってみても、スマホがあってもなくても、やっぱり不自由には変わりなかった。
どこもかしこも監視の目があったから…。
ああ、寒い。
吐く息が白くなる。
腕時計を見ると20:00。
もう2時間だ。今日はもう無理なのかな?
そっとビルの6階に目をやる。まだ赤々とついている明かり。大河はいまごろまだパソコンの前に座っているのだろうか?
時計を見る。20:10。あと20分でタイムリミットだ。
あと30分だけ。あと30分だけがんばろう。
少しでも暖かくならないかと足踏みをしてみる。
本当はどこか暖かい店に入っていればいいんだと思う。
でも…。
そうすると、大河のことを見逃してしまうかもしれないと思うと、気が気でなくて、やっぱりこのビルの入り口の見える位置に落ち着く。
6階のビル。今日はもう何度見上げたことだろう。そして、今までも何度見上げたことだろう。
6階は大河が働いているオフィスだった。大河の仕事は編集者。初めてそのことを聞いたとき、心の底からかっこいいって思った。本を作る仕事だなんて、なんだか知的なイメージで頭がいい人のように感じられた。
だけど、今は大河のことを取られてしまったようでうらめしい。
大河に言わせると、編集の仕事は際限のないブラック企業ともいえるらしい。会社に泊まることも週に何度もある。それも、いつも予定せずに残業からもつれ込むようにずるずると…。何度このことが原因でデートをすっぽかされたことだろう。
そんな会社辞めればいいのに…って思うけれど、大河はずっとやりたかった仕事だからって困ったように笑ったんだ。その顔を見たら、何もいえなくなった。
そして、私はその夢を応援したいとは思っている。
だけど…。
かじかむ指に息をつきかけてビルを見上げるとまだ明かりはついていた。
はあ、今日はもう無理かな?
