ここはいつも私たちが飲みに来ている居酒屋「都」。

私はここのにしんの塩焼きと炭火焼きおにぎりが大好きなのだ。

ここには週に3回くらいは来ている。

結構、このお店の売り上げにも貢献しているのではないだろうか。

そしてここではよく美月先輩と一緒に飲んでいる。

今日は私の悩み相談。

私は大好きなにしんの塩焼きと炭火焼おにぎりを食べながら美月先輩に悩み相談していた。

「私、弱くて逃げてばっかりでどうしたらいいのか......」

いつも上手くできないと言い訳を作ってしまう私。

もうどうしたらいいのかわからない。

私は持っていたおにぎりをゆっくりとお皿の上に置いた。

すると美月先輩は

「あんたそんなことで悩んでたわけ?」

「そ、そんなことって」

悩みをこんなにあっさり切り捨てられてしまい、動揺してしまった。

だって、そんなことだなんて。

「まぁ、よく大人は逃げちゃダメって言うけど、人間はそんなに強くないものよ」

先輩は持っていたビールのジョッキをテーブルに置いた。

「え?」

「時には逃げてもいいこともあるのよ、きっと」

逃げてもいい?

今まで大人は逃げちゃいけないものだと考えていた私にとってそんな先輩の言葉は新鮮だった。

「その後、冷静になってその事に向き合える時が来たら向き合えばいいのよ」

と言って先輩は生ビールの大ジョッキを持ち直し、一気に飲み干した。

「先輩飲みすぎじゃ......」

こういうところがあるから彼氏ができないんだ。

「はぁ......」

それにしても美月先輩は逃げるようなことをしない強い女性だと思っていた。

そんな先輩にまさか、逃げていい時もあるって言われるなんて。

「あ、でも逃げすぎちゃダメよ」

「っはい......」

やっぱり。

先輩は逃げることなんてほとんどないんだろう。

だけど私は......

「でも、あんたは今のままでいいのよ。自信を持てばいいの」

え、今のままでいい?

逃げてばっかりなのに?

それに自信を持てばいいなんて。

そんなの......

「その自信のなさが仕事に出ちゃってるだけ」

「いでっ」

先輩は少しうつむいている私のおでこにデコピンをした。

「あなたなら大丈夫」

「先輩......」