「部屋の前まで送るよ。」
そう言って、私の手を取り、長野さんの腕に絡ませる。

「少し酔ってるよね。掴まってて。」
そう言われると、本当にフワフワと酔いが回ってるような気がしてくる。

階段をゆっくり上り、2階の自分の部屋の前まで来た。

「ここです。」
長野さんの腕から手を離し、お互いに向かい合う。

「うん。今日は偶然会えて嬉しかったよ。」

「はい。私も。」

「お店を出る時、言ったこと本気なんだ。優香里ちゃんが酔ってない時に、また聞いてくれる?」

「………はい。」

「でも、ちょっとだけ…。」
そう言って、長野さんが私の肩をそっと引き寄せた。
長野さんの胸に、ふんわり抱き寄せられて、爽やかな柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。

ドキドキして、胸がキュンと苦しくなる。

あぁ、なんだろう。この感じ。
長野さんに会うのは、まだ2回目なのに…。

しばらくそうしていたら、長野さんがゆっくり身体をはなす。
急に寂しく感じてしまい、長野さんを見つめる。

長野さんが、ちょっと困ったように笑って、
「そんな顔しないで。これでも頑張って抑えてるんだから。」
さっきよりも熱を感じる視線に捕らえられて、目を離すことも出来ない。

どれくらいそうしていたのか、
やがて、長野さんが
「じゃあ、また明日。おやすみ、優香里ちゃん。」
と言った。

「はい。今日はありがとうございました。おやすみなさい。」

階段を降りて行く長野さんの足音が、耳に心地よい。
タクシーに乗り込む前に、こちらを振り返り、手を振ってくれる。

戸惑いながらも、私も手を振り返した。
タクシーが静に去って行くのを、フワフワしながら見送った。