晩ご飯を食べずに家に帰った。


家に帰ると元?婚約者が仁王立ちで、
金を先に出せ、取りっぱぐれそうだから今すぐに出せ。出なければ家に入れん、と言った。

そうは言ってもまだ2月やったからあまりに寒くて、イライラして泣き叫んだりオートロックなのでインターフォンを鳴らしまくったりした。
寒すぎたからお腹も痛くて、とにかく家に入れてもらわねば、と必死やった。


あまりにも入れてくれんのやったら、ネカフェに行ってとりあえず一夜を明かそうとは思っていたけど、ますます家に入れてもらえんのは目に見えていた。

やから、とりあえずここで一旦家に入れて貰う必要があった。


散々粘ってオートロックを開けてもらい、隣人には本当に申し訳無いことをしたが、玄関前でも同じような迷惑行為をし続けた。



人様に迷惑だろと怒鳴られながら結果的に家には入れてもらえた。

しかし玄関先で締め出しをくらって、リビングには入れてもらえなかった。


わたしが押しても動かないように、彼は扉の前に居座って資格の勉強を始めた。

流石に体重が違うし、わたしは足が悪いから踏ん張れないしで無理やり開けるなど到底出来んかった。


わんわん泣いて、ダメやったから寒い廊下で座り込んだ。


あまりに色々なことがあって疲れていたし、戸波さんとのセックスもあったのに寝ていなかったから、むちゃくちゃに眠かった。

外に行く格好のままおって、ことさらに寒かったというのに目を閉じた瞬間眠りそうやった。


あーあかん、寝たら風邪引くわ、と思いながらもわたしはうとうとしかけた。




しばらく経って、ドアが開き罵声が飛んできた。



お前何寝てんだよ!いい加減にしろ、起きろ!
家賃持って来ないなら絶対リビングに入れないから。はやく金持ってこい!



分かった、今すぐ行く。行くから、鍵貸してください。お金持ってきて、入れてもらえへんかったらわたし外で寝るん?



知らねーよそんなの。行くなら行くではやく行けよ、次入れてもらえるかどうかは知らないけどな!!



そんなやり取りが続き、金持って来ないなら今すぐ出ていけ、とお金持ってくるから入れて、入りたい、の言い合い、揉み合いになった。

ふと玄関の棚に目をやると、わたしの鍵は隠されていて見当たらんかったけど、彼のキーケースが目に留まった。



なんでそんなん言うん、分かった、鍵持って行けばいいんやね。貸してくださいてお願いしても貸してくれへんのやから。


そう言って鍵を引っ掴んだ。



次の瞬間、すごい勢いで身体を捕まれ、気づいたら床に頭をガンガン打ち付けられていた。


返せテメー勝手なことしてんじゃねーぞ!いい加減にしろよマジで俺の人生めちゃくちゃにしやがって!鍵返せ泥棒!不法侵入で警察呼ぶぞ!


彼は半泣きで無理やりわたしの手から鍵を奪い、わたしの首を締めながら驚くべき力で床に頭を叩きつけた。



驚きと痛みと苦しさで何の言葉も出んかった。


とにかく驚いたし、なにより怖かった。

今までも喧嘩になって揉み合いとか、わたしの言い分なんて聞いてもくれず締め出しとかひたすらに言葉の暴力とかはあったけど、実際に肉体的に痛みを加えられたのは初めてやったから。


自分が悪いのは大いに分かっていて、困惑させて申し訳ないとも思ったけれど、どうしてもしおらしくごめんなさいなんて言えへんかった。


警察の前でも立派な嘘八百を並べたくせに、もはや嘘をつくことすら面倒くさかった。

戸波さんがいるがゆえに、そこまでにも気持ちが冷めてしまっている自分が怖くもあり、申し訳なくもあった。


申し訳ないと思う反面、家を追い出されたら困るのにも関わらず従順な態度すら取れへんかった。

冷めると縋ることすら面倒になってしまうのかと自分に呆れた。


しかし、それにしても家を確保することしか頭にない自分に心底がっかりした。


そんなに自分が図太い人間やったなんて思ってもみなかった。




奴の気が済むまで頭を床に打ち付けられっぱなしでいた。

反抗する意味がこれっぽっちも無かったし、反抗したとしてやめてくれるはずがなかったから。



信じられないくらい目の前がぐらんぐらんしてきて、頭がガンガンした。

首を締めながらされていたから、半分酸欠で脳がどろどろしている気がした。



何かをずっと喚き続けよって、わたしをひたすらに詰って、わたしがあまりにも何も言わないから諦めたのか、
突然手を離すと大きなため息をつき、あああああもう!!と怒りに任せて扉を蹴飛ばしながらリビングに消えた。



わたしは頭が痛すぎて吐きそうで、しばらくそのまま倒れていた。


目の前が今までにないくらいぐるぐるした。


これは明日の朝むちゃくちゃ頭痛がするやつやろうな。
頭痛すぎて既に気持ち悪いから、吐くかも。


晩ご飯食べてないから、そんなに苦しまんと済むかな。



そんなことを考えていたら、また猛烈な眠気が襲ってきて、ひとたび意識が途切れた。