1時間近くが過ぎた。

23時。ほんま帰りたい。
気持ち悪いし、頭ぐるぐるして倒れそう。

相変わらず水瀬さんの手は、わたしの胸や股をまさぐっている。

生で触って涎を垂らしそうな顔。


めちゃくちゃエロい顔してない?


何も言わないわたし。
はやく終わって欲しい。

無駄な抵抗もせんと、なんの反応もせんと、
つまらん奴やなと早く思ってくれ。

所詮ここは店、人目がゼロではないんやから
これ以上の進展はあるはずないから。



戸波さんからのメールを告げるランプが光っている。


社用ケータイやから、迂闊に触ると告げ口しているのがバレる。怪しまれる。

そしたら水瀬さんはキャリアを失うわけやから、どんなとばっちりを食らうか分からない。

恨まれるのは、心底ごめんだ。


水瀬さんがトイレに行った隙にケータイを開く。


メールが2件、着信が1件。



まだ終わらんの?


はよ帰って来や


そして着信。




はやく帰りたい。

戸波さんの顔みて泣きたい。
頑張ったでしょと言って飛びついてしまいたい。


水瀬さんに唇を奪われる。

泣きそうやった。
お酒の力もあって余計に。

元々よく泣く人間は、お酒が入ると
ますます泣き虫になる。



頭痛くて気持ち悪いのを我慢して、なんとか与えられた一杯を飲み干した。



一杯飲んだから、もう帰ります。




そうか。また飲もうな。
展示会の時は必ず誘うし、次は抱かせて。




気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。


かろうじてお会計が済むまで笑顔を保ち、先に店を出て水瀬さんを巻いた。





ホテルに帰り、部屋に入って速攻メールをした。



帰りました。泣きそう。



そうか、ちょっと安心した。
あんま心配させんといてやー



色々されました。




接待違ったら一緒に行けてんけどなぁ
よく耐えた!えらいよ!




涙が止まらなくなった。


優しい戸波さん。

その優しさはほんまにずるいよ。

心配してくれはったなんて思いたくない。


ぐずやから水瀬に捕まったお前がわるい。
そう言って突き放してよ。


でも怖かった。

振り切れんかったら、部屋行きやった。
完全にヤられてた。

抱かせて、抱かせてばかり言うてた。
店の中やのに脱いで見せて?とか言うてた。

怖かったよ。



そう思って泣いていたら、電話が鳴った。




………戸波さん。





もしもしー?大丈夫?



となみさぁん…………………



また泣いてんのー?
まあそうやとは思ってたけど。



怖かった。ほんまに怖かった。

どうしたらいいかわからんかって。




分かった分かった。
ここのホテル壁薄いから、部屋で泣くのやめーや?

3階に人おらん座れるとこあったから、そこで話そ?こんな時間やし、泣いていいから。先行っとるで、来てやー。



わかった、行きます…



待っとるね。





頭痛くて思い身体をお越し、涙が溢れる目頭を拭い拭い部屋をでた。

誰にも会わへんか心配で何度もキョロキョロした。


涙をまたほかの人に見られたくない。


俯いたら涙がぼたぼたっと垂れた。