嘘だらけの秘密



泣いて全てを話した。



相変わらず戸波さんは、怒らなかった。


あるあるやわ、そういうのを乗り越えて強くなっていくねんで。

悔しかったんやな。頑張った。

そういって、過去話をし始めた。
あるあるやと言った通り、まさに似たような内容の話やった。


ひとしきり話して、落ち着いたはずやのに、

雨やったからか、生理前で情緒不安定やったからか、たまらなく泣けて泣けてたまらなかった。

そんなわたしを見ては戸波さんは、笑わせようとおもんないことばかりを言ってはニコニコし、

笑ってくれへんなぁ、と眉を下げたりまた冗談を言ったり。忙しくあれこれしてくれていた。

そんな優しさを感じれば感じるほど逆に泣けた。


ずるいですよ。呼び止めたりして。
こんな時に。分かってたでしょ?


何が?でもあんなのほって帰れるわけないやんか?


やけど、ほかの人は帰りましたよ。
ほんまならわたしの上司の役目やし、戸波さんは赤の他人やないですか。
しかも乗せたら最後全然泣き止まんとこうして居座るて知ってたでしょ?


知っとったよ。それでも、あのまま返せんかった。気になってしゃーなかったんやん。


それがずるい。ほんまにずるい。
ほかの人にもする?わたしの同期が同じ目みてても拾いますか?


拾わへんと思うよ。やって、双海は俺が拾わんとあかんかったやろ?


そうですね。戸波さんやなかったら、のってないです。
でもあかんのに。こんなんあかんのに、勘違いしますよあほやから。


あかんよ。……分かってる?


分かってます。けど好きなもんはしょうがないやないですか。
やったら優しくしないでください。
そんな顔して見ないで。ほっとけんかったとか言わんとってください。


いややわ。やって捨て猫拾ったみたいなもんやし。気になってしまったんやもん。
お前には優しくしたいもん。これからもお前がなんと言おうと俺は優しくするよ。


やから、ずるいんですよ。ずるい。
嫌いになりたい。


やったら嫌いになる?嫌いになれば?
でも俺は優しくするよ。


誰にでも同じにやったらいいのに。


双海にはとりわけ優しくするもん。
なぜなら俺がそうしたいから。


好きになっちゃう。もう好きやけど。
あかんて分かってるけどやっぱ好きです、、



あかんよ。不倫するつもりは、ないから。



分かってます。



分かってる。
分かってる分かってる分かってる


でも分かってるなんかじゃ済まされない

あんな優しい言葉をかけられて、あんな優しい目を向けられて、これからも優しくするよだなんて。ずるい。ずるすぎる。

最後の不倫するつもりないから、は戸波さんなりの強がりで、
自分に言い聞かせてるんやとバレバレなくらい弱々しかった。


そんな土足で入るな、俺にその気はない、てスタンスやったら絶対にあんな顔でそんなこと言わない。

戸波さんは怖い人。

怒ったらむちゃくちゃ怖い人。

不倫けしかけてくるなんてヤバいやつもう関わらん、てスタンスなんやったら
もう追い出されてるし、もっときつい目して言い放たれてるはずやから。


そうされない分、余計に苦しかった。


仕事面での気持ちは晴れても、
言いようもないモヤモヤが胸に広がった。

ついに想いを打ち明けてしまった。

早かったな。全然もたんかった。


それよりも接近イベントが多すぎるんがわるい。
タイミングなのかもしらんけど。


鬱々と物思いに耽りながら、寂しく戸波さんを見ていた。

戸波さんはなにも言わんとわたしを見ていた。



落ち着いたなら、今日はほんま遅いし帰り。


気づいた時にはもうかなり遅い時間やった。
バスの終電も危ういくらいの時間。



もうこうしてくれることはないですか?


またタイミング合えば。
タイミング合えば、送ったるから。泣かんと帰り。


じゃあ最後にお願い、きいてください。


なに?


何でも聞いてくれますか?


うーん………ええよ。


頭よしよししてください。



なんやそれ。かわい。



戸波さんの手が頭に触れる。

わたしがいつか知っていた頭よしよしと違って
かなり前頭部を撫でるようなよしよしだった。

これが戸波さんの頭よしよしか。


戸波さんを少し試していたから、希望を感じてしまって嬉しかった。

さっき、不倫するつもりないから、と言ったし、それが本気なんやったら頭触ったりなんて絶対せんはずやから。


やのになんの躊躇いもなく頭を触った。

そのことが嬉しかった。


いとおしいものを見る目をしていた。

実家の犬の写真を見る目。
あなた、わたしが好きでしょう?


今日は自制しているかもしれへんけど、

わたしと同じ気持ちでしょ?

そう聞きたくて聞きたくてたまらなかった。
聞いたら崩壊すると分かっていたから、やめた。


戸波さんのペースに任せよう。


頭冷やして、やっぱりと奥さんを選ぶなら身を引く。
また関わりを持ってくれるなら、わたしはとことんあなたとズブズブになりたいです。


その目に訴えて、車を降りた。



去ろうとしたら、窓が開いた。


人生で、車で送ってもらったことなど2回目やったから、
降りたあと窓が開くことになんの意味があるのかもわからず戸惑った。


ちょっと首を傾げていたら、


なんやその顔。バイバイ言ったろと思ったんやん。泣かんように。

と言いながら戸波さんが手を振ってきた。


ありがとうございました、楽しかったです。お気をつけて。おやすみなさい。


わたしも小さく手を振った。



戸波さんの車が走り去るのを見届けて、また少し泣いた。


雨がすっかり上がっていたのが、心模様を表しているようでセンチメンタルな気持ちになった。