翌日、大分ハラハラしながら差し入れを持って離れを訪れた。
法人が違えば、空気感も違う。
男ばかりの向こうのグループに似つかわしく、
おじさんから若い人まで、見事に強そうな男の人ばかり集結していた。
社内の女性は同期と先輩を含め3人きり、しかもグループが戸波さんとは違うので
突然の他所者の登場に、少々不審な目を向けられた。
戸波さんを呼び出して、差し入れ、持って来ました、と言ったら
そんな気使わんと来てよかったんやで、みんな女の子きてくれたらうれしーもん。むっさい男しかおらへんし、なんて言ってにっこりした。
そして約束通り紹介してくれた。
今思えばそれも、ただただ戸波さんとの関わりを作りたかっただけなのかも。
その時はあまり考えんと、色々な人に挨拶して、帰って、戸波さんの机にお礼のメモを残した。
その翌日、ひとりで倉庫をふらついていたら呼び出され、くれる、と言っていたサンプルをくれた。
みんな喜んでたで。ありがとね、こんなとこやから、差し入れしたことももらったこともないんやわ、みんな。
と言いながらにっこりした。
内心、迷惑ちゃうかったかな、差し入れなんて場違いじゃなかったかな、でも会議中にお邪魔するのに手ぶらなんて有り得んしな、とか色々悩んでいたので嬉しかった。
戸波さんの笑顔にはランクがある。
愛想笑いの目が笑っていない顔。
目までむちゃくちゃ細めて笑っている顔。
愛想笑いでも冗談で目を細めている顔。
冗談と本気の笑顔の区別はつかなくとも、
目の奥に怒りがないのは見て取れた。
それに戸波さんは怒ってたら
サンプルなんかをくれるために(戸波さんになんの得にもならんのに)、
わたしをわざわざ呼び出すような義理堅い人ではない。
ごめんやっぱメーカーに返さなあかんみたい。
そういうだけでいいはずやのに、
秘密やで。見つかったらちょっとあかんから、あっこに隠しとき?
そうも言ってくれた。
ということは、怒ってはいない。
むしろ、少しばかりわたしに対して
良い印象をもったに違いない、そう判断した。
