「知ってるよ、藤咲さんはものじゃないし、ひとりの人間だし。
ただ、藤咲さんとのふたりきりの時間を俺が勝手に独り占めさせてもらってるだけ」



「…………」



「藤咲さんにとっては〝図書室で過ごす時間〟かもしれないけど、俺にとっては〝藤咲さんとふたりでいられる時間〟だから。
誰にも邪魔されない、俺の至福のひとときなの」



そっと、その〝ひととき〟を味わうみたいに、瞳を閉じた尾崎くん。


まつげの影が、整った顔立ちに落ちて、一瞬見惚れてしまった。



その瞳は今、閉ざされてしまっているけれど……考えてしまう。



尾崎くんが時折見せるあのまっすぐな瞳。



その目はいつも、どんなものを、どんな景色を見ていたんだろう。


今まで、どんな人間を映していたのかな?



今回たまたま視界に入り込んだ私を……どうして君は好きというの?



他にもたくさん、この世界はきれいで美しいものに溢れてるのに。



心の中で問いかけても、その答えが返ってくるはずはなくて。



その代わり、彼の瞳がそっと開き、私を見つめた。