「藤咲さん、もっかい俺の名前呼んでみて?」 「なんで?」 「……なんとなく」 満面の笑みが、一瞬だけ消える。 声のトーンも儚げな表情も、尾崎くんらしくなくて、少しだけ違和感を感じた。 彼と話していると、たまにある。胸に引っかかる違和感。 この正体が何なのかはわからないけど、今だけは彼の要望に応えた。 「……尾崎くん……」 「はは。よくできました」 あ、笑った。 ただ名前を呼んだだけで、こんなにも幸せそうに笑う。 ただ私の中で、〝噂の転校生〟が、〝尾崎くん〟に変わっただけなのに。