「翔護、考え事?」

「ん? ちょっとね」

彼女を抱きしめたまま動かなくなった俺に、可愛い声がかかる。

いけない、ちょっと色々と思い出に浸ってしまった。
これから学校だとだと言うのに。
あまり遅くなって誰か来たりとか、疑われたりとか、困る。

「じゃ、行こうか、凛。
部屋を出たら、お屋敷の人たちの前ではお嬢様と執事だから、そのつもりでね」

「うん……」

名残惜しそうに腕から離れて行くぬくもりと、寂しそうな瞳。

もう一度抱きしめたい気持ちをぐっと堪えて一緒に部屋を出た。