白い息の向こう側

「く、くそ!」

 そう言って暗い住宅街に消える。

 残念なことに「覚えてろよ」はなかった。そこまでの悪役ではなかったか。

「お姉さん、ありがとう」

 改めて少年の顔を見ると、こいつは狙われるレベルの美少年ではないか。

「い、いいのよ。おうちはどこ? 送るよ」

「帰っても誰もいないもん」

 あら、それは寂しい。

「でもこんな暗い所にいちゃ危ないから」

「だったらお姉さんちに行きたい」

 何を言うんだこの少年。よもや私が狼にならないとでも思っているのか。いや、ならないけど。

 この上目遣い──確信犯だな。

 自分は可愛いと思われているという態度が透けてしまえば、それはもう相手に通用しない。