次の日。
夜遅くにお見舞いの人が来た。
知らない男の人が入ってきた。
「誰ですか?!」
夜だったのもあって、少し怖くて声を出してしまった。
「…え」
一瞬その男の人は悲しそうな顔をして、夜遅くにごめんねと謝って外へ出て行ってしまった。

あれは誰?
あの人が出て行ってからずっと考えてる。
…あ!!!
先生!!!
そうわかった瞬間、体が勝手に動いた。
「待って!先生!!!」
扉を開けたら、先生は病室の目の前に置いてあるソファーに腰掛けていた。
私が病室から出てきたことに驚いている。
「先生ごめんなさい…」
先生は何が何だかわかんない様子で。

どうして私は先生を忘れちゃったの?
一瞬だったとしても。
それがすごく悔しくて…。
あっ!!!痛っ。
また、あの時の頭の痛みが襲ってきた。
「中野?!大丈夫か?!」
先生の呼びかけに応えられるほどの余裕がなくて、両手で頭を抱えてこの痛みに耐えるしかなかった。
先生がすぐお医者さんを呼んできてくれて、私はすぐに楽になった。
そしていつの間にか寝てしまった。

その眠りの中で私は夢を見なかった。
ただ、もう命が少ないのだと悟った。
次第に、記憶がなくなっていって、いずれお母さんやお父さんのこともわからなくなるのだと思うとゾッとした。
でも、もう遺書は完成している。

先生が泣きながら私にキスしてくれてることを知らずに…。