ギャーギャー騒ぐ私に見向きもせずに、朝比奈さんは足早に暗闇の道を歩いていく。

一切こちらを振り返らない所を見ると、本当についてこなかったら置いていくつもりらしい。

相変わらず冷たい男だな、と思ってその背中を睨みつけながら慌てて懐中電灯の灯りを追う。

それでも、その広い背中を見て、ふぅっと一度大きく息を吐いた。

そして。


「朝比奈さん!」


立ち止まって大きな声で、そう叫ぶ。

すると、先を歩いていた朝比奈さんがクルリと振り向いた。

その姿を見て、ニッコリと微笑む。


「ありがとうございます!」


ここに連れて来てくれた事、この桜を見せてくれた事、不器用ながらも慰めてくれた事、本当に感謝してる。

優しくもなく、気の利いた慰めもないけど、それでも真っ直ぐに私に言葉を投げかけてくれた。

不器用で、不格好で、それでも何より私を思って言ってくれた言葉。


「私、頑張りますね!」


無くしたものばかり数える日々は、もう止めよう。

過去を変える事は出来ないけど、未来は変えられるのだから。

そんな単純な事も忘れていた自分が馬鹿みたいに思えた。