まるで独り言のようにそう言って、ははっと笑う。

そして、紛らわすように残っていたビールを一気に煽った。


「どこに行っても同じだろ」


すると、今まで黙っていた朝比奈さんがポツリとそう呟いた。

え? と思って視線を下ろすと、真っ直ぐに私を見つめる黒目がちな瞳がそこにあった。

あまりにも真剣なその姿に、張り付けていた笑顔が剥がれる。


「どれだけ逃げて例え場所を変えたとしても、人はそう簡単には変われない。過去を消す事なんてできない」

「――」

「大切なのは、どこにいるかじゃなくて、誰といるかだろ」


真っ直ぐにそう言われた言葉に、声を無くす。

まさか、そんな事言われるとは思ってもいなかったから。

言葉も無くして固まる私を見て一度視線を外した朝比奈さんは、徐にテーブルに置いてあったビールを開けて私に手渡した。


「ほら」

「え?」

「飲むんだろ。付き合ってやるよ」


反射的にビールを受け取った私を横目に、再び朝比奈さんはビールを煽った。

その姿を見て、空っぽだった心が少しだけ温かくなる。