『仕事』という言葉に、一気に現実に戻された気分になる。
天井を向いてビールを煽っていた顔を戻せば、無表情のまま私の顔を伺う朝比奈さんがいた。
ポタリとその髪から雫が落ちて、綺麗な頬に道を作っている。
その姿が、泣いてるように見えて可笑しくなる。
泣きたいのは、私の方なのに――。
「仕事は、辞めました~」
「――」
「住んでいたアパートも、引き払いました~」
私が一生懸命築き上げた世界。
だけど、どちらもあっさりと手放した。
そして、空っぽになった世界から逃げるように、ここに来た。
それなのに、ここに来ても私は空っぽの毎日を過ごしている。
場所を変えても、環境を変えても、私は私のままで、空っぽのままだった。
立ち止まっている時間が気持ちを急かす。
周りに置いて行かれないように今まで必死に頑張ってきたのに、私は歩くのを止めた。
その瞬間、一気に何もかもから見放された気分になる。
私だけ、蚊帳の外。
一気にネガティブな感情が胸を覆って、泣きたくなる。
それでも、泣き顔なんて死んでも見られたくなくて、ははっと笑いながら下を向いた。
すると。



