守りたい人【完】(番外編完)


モクモクと上がる湯気も楽しみつつ、脱衣所を出てチラリと家の中を見渡す。

それでも相変わらず人の気配はしなくて、シンと静まり返っていた。


いつもは7時頃になれば食堂に下りてきていたけど、今日は夕食の時間になっても朝比奈さんは帰ってこなかった。

まぁ、別に夕食の時間に食べろって決まりがあるわけでもないし、ラップして置いとけばいいよって母も言っていたから問題はないんだけど――。


「なんだかなぁ」


昼間に見た、あの笑顔が脳裏に浮かぶ。

無邪気な子供みたいに笑って、いつもの淡々とした喋り方じゃなくて楽しそうに話す、あの姿。

思い出した瞬間、モヤモヤした気持ちが胸を覆って歯痒い。

私にはあんな顔見せた事ないくせに、子供達には見せるんだ――。


またもや思い出したくもない光景を思い出して、気分が悪くなった。

せっかくお風呂に入ってスッキリしたのに、これじゃ意味がない。


「止めた止めた。別にいーじゃん。あんな人の事なんて」


ウジウジしている自分にそう言い聞かせて、勢いよく冷蔵庫を開けてビールを取り出す。

特段酒好きってわけではないけど、たまに無性に飲みたくなる時がある。

まぁ、だいたいがこういうイライラモヤモヤしている時だけど。