「あ~あ。変な事引き受けちゃった」
「それでも、なんだかんだ言いながら完璧にこなすのは、志穂ちゃんの凄い所だよ」
「まぁ、私のせいで下宿屋潰すわけにはいかないからね」
「昔から、志穂ちゃんはそうだよね」
「え~?」
「しっかりしてる」
たまちゃんのその言葉に、僅かに苦笑いを浮かべる。
それは私が昔から、よく言われていた言葉だったから。
『志穂ちゃんは、しっかりしてるね――』
昔から仕事で忙しい両親のもとで育った私は、我儘を言わないようにしてきた。
我儘を言えば、優しい両親は私の言葉を優先してくれる事、分かっていたから。
昔、一度だけ一人が寂しいと我儘を言って、夜勤に出掛ける母に泣きついた事があった。
母はそのまま仕事を休んで、次の日も、その次の日も私が満足するまで側にいてくれた。
だけど、その反動で仕事が溜まって母は倒れた。
私のせいだと泣きじゃくる私に、母は優しく笑っているだけだった。
結局、何が原因で倒れたかは分からなかったけど、あの日を境に私は我儘を言わなくなった。
私さえ我慢すればいいんだって、思うようになった。
そんな私を、近所の人達は『聞き分けの良い子』と言って褒めてくれた。
それが嬉しくて、私は更に我儘を言わなくなった。



