「それで、お父さんもお母さんも旅行に行っちゃったんだ?」


鼻息を荒くしてお饅頭を頬張る私を見ながら、たまちゃんが可笑しそうにそう言う。

その姿を横目に、深い溜息と共に口を開いた。


「そう。私が帰って来るや否や、見計らったように世界一周だって」

「で、志穂ちゃんが下宿の仕事を?」

「ん~最初は迷ったけど、今まで迷惑かけてきたし、無理言って東京に出させてもらったから強く言えなくて」

「志穂ちゃんは昔から優しいもんね」


そう言って、ふふふと笑ったたまちゃんを横目に再びムシャムシャとお饅頭を口に運ぶ。

それでも、その言葉で思い出すのは、あの男の言葉。

『不愉快』と言われた、あの言葉。

その瞬間一気にイライラが再発して、近くにあった石を思いっきり田んぼに向かって投げた。


「だいたい、なんであんなに不愛想なの!? 私が何か話しても無視だし、素っ気無いし」

「例の下宿人さん?」

「そう! 今日の朝だって、卵焼きの味をそれとなく聞いたら何て言ったと思う?」

「なんて言ったの?」

「固いし、味しない。よ!? もっと他に言い方があると思わない?」

「卵焼き、失敗したの?」

「してないよ! もはや自信作だったんだよ!?」


朝の事件を思い出して、隣に座るたまちゃんにそう言って詰め寄る。

それでも、たまちゃんはケラケラと笑って口を開いた。


「素直な人なんだよ。きっと。嘘がつけないっていうか」

「例えそうだとしても、あの態度が許せない!」


吐き捨てるようにそう言いながら、ゴロンと芝生に横になって空を見上げる。

綺麗な青空でも見れば気分が少しでも晴れるかと思ったけど、一向に晴れてはくれない。