「だったら、なんでここにいんの?」

「はい?」


それでも、告げられた言葉が思っていたものとは全く違うもので、思わず聞き返してしまった。

言葉の意味が理解できずに、瞬きも忘れて目の前の朝比奈さんを見つめる。

すると、小さく溜息を吐いた朝比奈さんは酷く呆れた顔で私を見つめ返した。

そして。


「なんで、やりたくもない仕事引き受けて、いたくもない場所にいて、喋りたくもない相手と喋ってんの」

「――」

「聞き分けの良いフリして、心にもない事言ってるのバレバレ」

「なっ」

「そーゆーの、見てて不愉快」


絶句する私に淡々とそう言い放つ彼。

それでも、言葉の意味を理解した瞬間、頭の中でブチっと何かが切れた。

そして、目の前にいる人が『お客さん』だという事も忘れて口を開いた。


「仕方ないじゃないですか、両親が旅行に行ってしまったんですから!」

「嫌なら引き受けなけりゃいいだろ」

「そういうわけにもいかないじゃないですか!」

「いい子ちゃんぶって納得したフリして、でも結局は腹の中ではどうして自分がこんな事って思ってるんだろ」

「――っ」

「そういうの、あんたも俺も嫌な思いすんの分かんないの」


声を荒げる私とは正反対に、酷く落ち着いた口調でそう言った朝比奈さん。

その姿に更に腹が立って、拳を握りしめた。


それでも、尚も言い返そうとする私を無視して彼は踵を返して部屋を出て行った。

引き留めようとも思ったけど、何故か声が出ずに唇を噛み締めてその背を見つめた。