こんなにも誰か1人の人間に興味を持ったのは初めてやった。
他に手がつかなくなるほど、その人を思うのは初めてやった。
あの田舎町から出て家まで帰ってくる間、ずっとあの子の事を考えていた。
「姫野、志穂――…か」
おっちゃんに教えてもろた名前を呟く。
陽炎のようにあやふやだった彼女が名前を得た事でハッキリとする。
その瞬間、会いたいと思った。
もう一度、この目に見たいと思った。
その瞳に映りたいと、思った。
そう思った瞬間に、心の中で何かが傾いた。
今まで揺れていた天秤が、カタンと傾いた。
「よっしゃ、決まりや」
もともと、思い立ったら即行動の俺。
勢いよくソファから起き上がって、携帯を握りしめる。
そして、かけるべき人の所に電話をかけた。



