「あ、ちょ、ちょ、おっちゃん! そこのおっちゃん!」
さっきまでどこを探してもいなかった町民が、なんともいいタイミングで現れる。
今にも壊れそうな自転車に乗った、おっちゃんが俺の声を聞いて驚いたように自転車を止めた。
「さっきまで、あそこにおった女の子、誰か知らんか!?」
自分でも驚くほどに必死やったと思う。
あまりにも情報の少ない俺の問いかけに、おっちゃんは唸りながら頭を掻く。
「20代くらいの女の子でな、長い髪で、身長はこんくらいでっ」
身振り手振りで説明する俺の言葉を聞いて、心当たりがあったのか、おっちゃんが思いついたように手を叩いた。
「あ~、そりゃたぶん、姫野さん家の1人娘やわ」
「姫野さん家?」
「もう少し行った場所に下宿屋があるんやけど、そこやわ」
「下宿屋?」
「高校卒業してからここを出て、パッタリ見んようなったと思ったら、つい最近帰ってきてな。いやぁ~やっぱり都会に出ると、垢抜けるなぁ」
「――」
「志穂いう名前やったかな。お母さんに似てベッピンさんやわぁ」
ペラペラとご機嫌に話す、おっちゃんの言葉を頭の中に入れる。
だけど、頭の中に浮かんだ彼女の横顔に埋め尽くされて、最後の方は返事すらせぇへんかった。



