そんな、ある日。

俺が近所の子供達と遊んで帰っている時、不意に帰り道であいつを見かけた。


芝生の上にシートを敷いて、同じような年頃の女と楽しそうに話している。

あれは確か、パン屋の夫婦の一人娘だったはず。

ニコニコと餅みたいな頬を持ち上げて、楽しそうに笑っている。


だけど、俺が目を引いたのは、そこじゃない。

その隣で楽しそうに声を上げて、我先にと話す志穂の姿。

いつも俺に向けるような取って付けたような笑顔ではなくて、本当に腹の底から笑っているような眩しい笑顔。

その真逆ともいえる笑顔を見た瞬間、胸の奥がモヤモヤした。


「笑えるんじゃん」


ポツリと呟いて、再び歩みを進める。

俺がどんな手を使っても決して見せなかった笑顔。

それを他のやつには簡単に見せている。

それが何故か悔しかった。


まぁ、俺達は普通の友人じゃない。

俺は金を払っている『客』なわけで、あいつは金を貰っている『大家』。

その関係を思えば、こうなって当たり前なのかもしれない。