「あの、お口にあいますか?」


朝食を1人黙々と食べていると、キッチンから顔を覗かせた俺の新たな世話人『志穂』が顔を出した。

張り付けたような笑顔で、俺の表情を必死に読み取ろうとしている。

あの天然マイペースで恐ろしく素直な両親とは違って、本当の自分を決して表には出さず、頭の中で常に何かを考えているような娘だった。


本当の自分を押し込で、人の顔色ばかり窺い、どんなに自分に不利益な事でも笑顔で何でも引き受ける。

八方美人で、我慢ばかりしている、そんな印象だった。


「この卵焼き」

「あ、はい!」

「固い」


そんな嘘ばかりで、酷く生き辛そうな彼女を見ていると、本音を聞きたくなる。

だから、俺は無駄に彼女を怒らせるようにズバズバと思った事を何でも口にした。

それでも――。


「すいません、もっと練習しますね!」


怒ってくるかと思えば、ニコニコと作られた笑顔を浮かべて卵焼きの皿を下げた彼女。

きっと腹の中では他の事を考えているのに、俺に対してはいつもこうだ。


俺は本音で話したいのに、彼女はいつも建前ばかり。

本当の自分を深い場所に閉じ込めて、必死に『いい子』を演じている。


それを口にしようかと思ったけど、止めた。

開きかけた口を閉ざして、再び朝食を口に運ぶ。

あの卵焼き食べたかったな、と思いながら。