守りたい人【完】(番外編完)

「あの日。要救助者を救助した日――……」


掴んでいた手を離そうとした時、突然ギュッと朝比奈さんの手が離れようとする私の手を掴んだ。

驚いて顔を上げると、顔を伏せたまま私の手を握る朝比奈さんがいた。

そして、その恰好のままポツリと口を開いた。


「救助している間に夜になってしまった。それでも僅かな灯りを頼りに避難所へ戻ろうとした時、要救助者が川に足を取られて流された。反射的に俺も水の中に飛び込んだ」

「――」

「だけど、流れ着いた先にはもちろん自衛官の奴らもいなくて、携帯も流されている最中に落としてしまった。足を挫いていた事と、これ以上の行動は危険だと判断して、要救助者と一緒にそこに留まった」


まるで報告書でも読み上げるように、突然そう話し出した朝比奈さん。

下を向いて私の手を握ったまま、今日までの出来事を淡々と話している。

その姿に何か話す事を憚れて、口を噤んだまま朝比奈さんの言葉に耳を傾けた。