「待って、意味が分からない……」

「まぁ、そのハワイに行った時の旅行がもう楽しくてな! 今まで仕事ばかりで夫婦で旅行もろくに行けなかったから、お互い時間ができた今、今まで行けなかった分いろんな所に旅行に行こうかって。な~?」

「ね~」


間延びした母の声を聞いて、一瞬卒倒しそうになる。

この人達は一体何を考えているんだ。

突然世界一周なんて、話がぶっ飛びすぎている。


「時間ができたって、下宿屋は!?」

「志穂がいるじゃないか」

「はい!?」

「大丈夫。ただ、朝晩の食事の用意をしてあげるだけだ。自分だって食べるんだから、一人分も二人分も変わらないだろ」

「そういう問題じゃっ」

「だいたい帰ってきてから毎日ぼけーっとしてるだけじゃないか。何かやっていた方が日々の刺激になって楽しいぞ。ボケ防止にもなる」

「だから、今働こうとっ」

「お? そうか~やっと、父さん達の仕事を手伝う気になってくれたか~。いや、嬉しいぞ」


そう言ってガハハハと豪快の笑う父は、我が父親ながらぶっ飛んでいる。

というか、私が今働こうとしているのは、決してここでではなく他の場所でだ。

そう言いたいけれど、自分の仕事を手伝ってくれると勘違いした父親は妙に感動している様子で何も言えない。

助けを求めるように母の方に勢いよく視線を向ける。

それでも。


「ずっと前から行きたいと思ってたのよ~。でも下宿のお仕事もあるでしょ? そんな時に志穂が帰ってきてくれたから、チャンスと思ってね。ただ、出発は来月でね? あ、でも大丈夫。出発までは日本放浪旅をしようと思ってるの~」


何が大丈夫なのだろうか、お母さん。

嬉しそうに、どこからともなく取り出した沢山のパンフレットを手にニコニコ笑っている。