「朝比奈曹長の、おかげですっ」
そして、逃げるように顔を伏せたその人は、唇を噛み締めながらそう言った。
その姿を見た朝比奈さんは、何も言わずにその人の肩に手を置いた。
雨の音が2人を包む。
まるで別世界からその2人を見ているような気持ちで、その場に立ち尽くした。
すると、グッともう一度唇を強く噛み締めたその人は、一度深々と朝比奈さんと私に頭を下げて、再び雨の中に消えていった。
小さくなる背中を見つめて、思う。
もしかして、と思う。
「朝比奈さん」
確信はない。
それでも、私の中の勘がそうだと言っている。
「あの人って……」
ポツリとそう呟いた私の声を聞いて、朝比奈さんがゆっくりと振り返る。
どことなく、寂しそうな顔で。
そして。
「俺の元部下だ」
「――」
「俺が庇った部下だ」



