そんな時、不意にあの人の事が脳裏に浮かんだ。

今度の夏はどこか自然豊かな場所でキャンプでもしようと言って、笑っていたあの人の顔が。


その事を思い出した瞬間、ダムが決壊したように沢山の思い出が蘇ってくる。

思い出したくもないのに、次々と浮かんでは消えていく。


告白された日の事、初めてのデートの事、一緒に食べた料理の事、沢山行った旅行先での思い出。

大好きだと言って優しくキスをくれた。

朝になるまで抱き合って、ずっと一緒だと約束した。

幸せで幸せで、仕方のなかった日々。


だけど、それらの思い出の最後に現れるのは、あの日見た光景。

大好きだと私に言った口で、後輩にキスをしていた。

私には見せた事もないような優しい顔で、髪を撫でていた。


「――っ」


あの日の事を思い出した瞬間、息も出来ない程胸が締め付けられて強制的に思考を停止させる。

今にも涙が出そうになって、自分の腕で目元を覆った。


考えたくもないのに、浮かんできてしまう。

忘れてしまいたいのに、消えてくれない。


「もう、勘弁してよっ」


早く忘れてしまいたい。

だけど、何もしないでいると今のように突発的に思い出してしまう。