守りたい人【完】(番外編完)

「ちょ、ちょっと、ずぶ濡れじゃないですか!」

「途中で傘が吹き飛ばされてな。もう全身強めのシャワー浴びた後みたいになってるわ」


慌ててタオルを持って駆け寄った私に、鍛冶君はケラケラと笑ってそれを受け取った。

髪の毛も、服もぐっしょり濡れていて、今しがたプールに全身浸かって上がってきたみたいになってる。


「これは、なかなかヤバそうやで」


もはやタオルで拭く意味もなさそうだと思っていた矢先、鍛冶君がそう言って溜息を吐いた。

その言葉に、首を傾げる。

そんな私を見て、鍛冶君が真っ直ぐに私に視線を向けた。


「近くの川が氾濫しそうなんや」

「えっ、でも、あそこは結構堤防もしっかりしてるはずじゃ……」

「その、しっかりした堤防も溢れそうになってた。もしかしたら、危ないかも分からん」


真剣な顔でそう言った鍛冶君の言葉に、ゴクリと喉を鳴らす。

テレビで水害の映像を見た事はあるけど、まさか自分自身に起こりうるかもしれないとは思っていなかった。

ジワジワと恐怖が湧き上がってきて、思わず持っていたタオルをギュッと握った。

すると。


「いつでも出れる準備はしておいたほうがいいな」


カタンと音がしたと思ったら、キッチンで話す私達の後ろに、いつの間にか朝比奈さんが壁にもたれて腕を組んで立っていた。